中国語のピンイン表記はアルファベットを使っていますが、読み方には独自のルールがあります。ですが、中国語の基礎知識がないために、そのままローマ字読みしている人が多いようです。
前々からネット上で見かけて気になっていた問題を例として書いてみます。
牛肉麺はニュウロウミェン?
台湾グルメの代表の一つ、牛肉麺(繁体字では牛肉麵)をカタカナで書くときにニウロウミェンと書く人が結構います。ウィキペディアでもほぼ同じ「ニュウロウミェン」表記になっています。
牛肉麵のピンイン表記はniúròu miànです。中国語を学んだ人は分かると思いますが、miànはミェンで合っていますが、niúròuという表記の実際の発音はnioúròuという三重母音で、ニウロウやニュウロウではなくニォゥロウやニョウロウ、ニョーロウに近い発音です。
中国語をカタカナで表記するのには限界があり、聞こえ方には個人差があるためどうしても表記ゆれが発生します。しかしニウロウやニュウロウは発音の上手い下手ではなく、ピンインの読み方を知らない人が書いたということが推測できます。
miànをミェンと書いているあたりで、完全なローマ字読みではなく多少耳で聞こえる音に寄せたのかなと想像していますが、台湾の中国語でniúをニュウと読むことはまずないはずです。
(NHKで「台北」を「タイホク」と読むような、特有の日本語表記ルールがあったとしたら、どなたかご教示いただけると幸いです)
インターネットの情報を鵜呑みにしてはいけない
ニュウロウミェンという発音でネイティブに通じるかどうかというと、私の夫(台湾人)は「聽不懂(聞いてもわからない)」とのこと。声調が合っていれば、もしかしたら何回か聞けば通じるかも?だそうです。
しかしながらGoogleで検索すると、近い発音の
「ニォゥロウミェン」2件
「ニョウロウミェン」220件
「ニョーローミェン」1030件
「ニョーローメン」1280件
に対して、ピンインの誤読と思われるカタカナ表記の
「ニウロウミェン」183件
「ニュウロウミェン」5630件
の方が多いという結果が出ます。
これがウィキペディアの表記をコピーしたものだとすると、だいぶ困ったことだなと思います。インターネットで間違った情報の方が多く伝わり、また言葉がそのまま定着していく現象は少なからずあります。
ピンインをローマ字読みしてはいけない理由
中国語の基礎的な知識として、ピンインをそのままローマ字読みしてはいけません。ローマ字読みしても通じる音が大半ですが、母音の発音で表記と発音が異なる例外がかなりあるからです。
ピンインは発音を表すものですが、発音記号ではありません。
ピンインには「表記と発音の違い」があることをまず理解しておきましょう。
意外と知られていないことなのですが、このピンインという記号は発音を表す記号ではありますが、いわゆる発音記号ではありません。 つまり、同じ「e」という記号でも、場合によって発音が違います。英語の「see」と「end」では「e」の発音が違うことと同様です
表記を省略するルール
ピンインには表記を省略するいくつかのルールがあります。
例として「牛肉麵」はピンイン表記では「niúròumiàn」で、「niú(牛)」はもともと「nioú」という子音+三重母音ですが、ピンインの表記ルールで真ん中のoが省略されている状態です。
真ん中のoの発音が弱くなるという理由からだそうですが、少なくとも台湾の発音では実際の発音は真ん中のォはしっかり残っているためニョウやニョーに近いです。
発音の例外
「ròu(肉)」はそのままロウまたはローと読んで大丈夫です。
「miàn(麵)」についてはまた別のルールで、ローマ字読みしてはいけない例外となっています。
「a」の発音は全て「a(ア)」の発音ですが、「yan, bian, pian, mian, dian, tian, nian, lian, jian, qian, xian」及び「yuan, juan, quan, xuan」の場合のみ「e(エ)」になります。
ここに書いたピンインのルールは中国語の入門本にも書かれている内容です。WEBであれば、上記で引用した「どんと来い、中国語」というサイトにより詳しく掲載されています。
一見難しそうですが、発音の例外は英語にもドイツ語にも日本語にもあるもので、中国語の学習がある程度進んでくると特に意識しなくても覚えられるようになります。
読み書きはできるけど発音できない人になっていませんか?
前述のピンインの母音のルールに加えて、中国語には日本語にない発音があることも理解する必要があります。例えば三重母音は中国語ではかなり多いですが、日本語にはない発音です。
日本で中国語を独学で習得したという人は、目から得られる情報に偏っていることが少なくないようです。発音が日本人には難しいのと漢字が読めてしまうことで、視覚優先の学習になってしまうという理由からでしょう。
ローマ字読みは中国語をカタカナに変換しているのと同じことです。その結果、中国語をカタカナ読みしているのと同じような状態になり、ネイティブには理解できない発音になってしまいます。
外国語の発音は見ただけでは覚えられません。ピンインを見れば発音はわかりますが、実際に自分が話すためには発音の練習が必要になります。
外国語はカタカナで読み書きできると思っていたあの頃
日本語では”カタカナを使えば全ての外国語を日本語で表記できる”というルールになっているせいか、意味さえわかれば多少発音が悪くてもカタカナで外国語が話せる!と思い込んでいた人は多いのではないでしょうか。
小学校でローマ字のアルファベットを習うと「これで英語を話せるようになる!」と子供らしい勘違いをしてみたり。少なくとも私はそうでした。
しかし、英語を日本人の発音で読んでも英語のネイティブに伝わらないのと同じで、ピンイン表記の中国語を日本人のカタカナ発音で読んでもネイティブには伝わりません。
ローマ字は小学校の国語の時間に習うもの、つまり外国語ではなくアルファベットを使って日本語を表記するためのものという大前提を忘れてはいけません。繰り返しますが、ピンインは日本語のローマ字とは異なるものです。
思い当たる節がある人は、今すぐそのままローマ字読みするのをやめて、まずはピンインの基本的なルールを確認しましょう。そしてもっと自分の耳を信じて、発音を聞くことに集中しましょう。
リスニングもスピーキングも一朝一夕で身につくものではありませんが、少なくとも表記ルールがあることを忘れずにいれば、ピンインの読み間違いによる明らかな間違いは減らせます。
中国語の発音にはさらに声調という日本人にとっては理解しにくいものがありますが、それについてはいずれまた書く予定です。
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